〜 番外編:追悼 吉村昭氏 〜  漂流
吉村 昭 著 新潮文庫

「漂流」著:吉村 昭

本日、朝の朝刊にて作家吉村昭氏が2006年7月31日に死去された事を知りました。

「戦艦武蔵」「神々の沈黙」等の著作が有名で、過去の史実を緻密に取材した作風が特徴の作家です。

ワタクシ的にずっと以前より、海にまつわるドキュメンタリー--航海記、漂流記、遭難、サバイバル関係の本を読みあさっているのですが、Amazonで本を探すようになって最初の頃、上記のキーワードにひっかかり購入した一冊です。実は、次の自分の番が来たらこの本を紹介しようと思っていた矢先に死去のニュースを知り、急きょ追悼と称して割り込んで紹介させていただく事に致しました。(Wakkoさん、キャットウーマンさんごめんなさい)

広い海で遭難したらどうなるのだろうか?
若かりし頃、手伝いをしていたヨットに置いてあった海の本の中に「荒海からの生還」という題の本がありました。
南太平洋を航海中のヨットがクジラかシャチのアタックを受け一瞬にして沈没してしまいます。夫婦と小さな子供二人と一人のクルーの青年がディンキーとゴムボートで数週間を生き延び、日本の漁船に全員無事に救助されるまでのドキュメンタリーでした。
彼らは単に船を失い漂流していた訳ではありません。魚やカメや鳥を捕まえて食料にし、雨水を溜め、発見され救助される見込みは薄いと考え、自ら航行で陸を目指していたのです。結果、日本の漁船に発見されたのですが、数週間という期間を小さな子供を連れて生き延びたという事実、そして絶対的に不利な状況下で生き延びようとする人間のサバイバル精神に深く心を打たれました。(今も絶版になったこの本を古本屋で探しています)

吉村昭の「漂流」に出会うまで、まさか救助ボートなんかで陸まで到達することは無理だろうと思っていました。

屋久島の海に始めて漬かった時、その水の温かさに驚きました。黒潮が南から直にぶつかるためで、それは風と共に山に当たり、屋久島名物の多くの雨を降らせる要因であります。
その海流は四国沖、東海沖を経て、房総半島沖で右(東)と上(北)に別れます。「漂流」の主人公長平は土佐の漁師、同じく有名な「万次郎」も土佐の漁師でした。シケで遭難した万次郎は北に流され、捕鯨の異国船に拾われます。※注
江戸・天明年間の事、シケで自力での航海力を失った当時の和船で長平らは東の方向へ流され、遠く小笠原諸島方面へ、絶海の孤島「鳥島」へと流れ着きます。
それから12年の間、壮絶なサバイバルを経て、最後には漂着物で船を造り、八丈島へと生還するまでの物語です。

海洋国日本と言われつつ、日本に本当の海洋文学が少ない事を嘆いていた吉村氏。緻密な取材と迫力あるリアルな表現力であたかも自分がその場にいるかの様な感覚に陥り、一夜で読み切ってしまったのを覚えています。

計り知れない圧倒的な自然・宇宙の中で、人と言う生き物が己の命の為にどれだけ強くなれるのか。
現代に置いても海の遭難で発見救助される可能性は決して大きくはないと思います。いざと言う時、まさかの時が自分に来るのか来ないのかは分かりませんが、そんな時こそこの本を読んでいて良かったと思うのかも知れません。

心より、吉村昭氏のご冥福をお祈り致します。

 

by Ryutaro

注--お詫び
筆者の勘違いで万次郎一行が漂着したのもやはり鳥島で、彼らはアメリカの捕鯨船に救助されました。
参照--ジョン万次郎漂流記 井伏鱒二
北へ流されロシア領アリューシャン列島に漂着したのは1696年立川伝兵衛、1783年神晶丸の大黒屋光大夫らであり、これらは同じく吉村昭 漂流記の魅力 に書かれています。
どちらも知人に貸しており手元に無かった時期に紹介文を書いたので記憶が混乱しておりました。
上の2冊もそれぞれ興味深い内容です。

    

 

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