〜 第12弾 〜  怪人エルキュールの数奇な愛の物語
Den vidundeliga kärlekins historia 
カール=ヨーハン・ヴァルグレン著 ランダムハウス講談社刊

時は1813年2月、ケーニヒスベルクの町がすさまじい大吹雪に見舞われた夜、ヨーハン・ゲッツ 医師邸のドアを叩いたのは医師自身も若き日に足を運んだマダム・シャールの娼館の娼婦だった。 プロイセン議会が決議した対ナポレオン戦の開始を告げる不吉な鐘が鳴り響くなか、娼館に到着 したゲッツ医師は2人の赤ん坊の誕生に立ち会った。
1人は美しく成長することが約束されているような健康な女の子、もう1人は・・・母親を死に 追いやった巨大な瘤だらけの頭部、鱗のある皮膚、ひどい口蓋裂で鼻と口と食道と気管を兼ねる 不気味な穴がぽっかりあいた顔、毛むくじゃらの背中、切り株のような腕ともいえない腕、聞こ えない耳の男の子だった。その場に同じく呼ばれていた司祭は「主が被造物をこんな風にする はずがない。悪魔の子だ」と洗礼を施すことを拒んだ。
やがて巧みにオルガンを弾きこなすまでになる両足を持った赤ん坊は英雄伝説や古代文化を好む マダム・シャールによってエルキュール(ヘラクレス)・バルフス(裸足)と名付けられ、その 世話はわが子を郷里に残して出稼ぎにやって来たやさしい娼婦の手にゆだねられた。
同じ夜に同じ場所で生まれ、何ものにも侵されない愛を互いに育んだヘンリエッテ・フォーゲル とエルキュールの生活は、娼館という閉ざされた世界で暮らす幼い年月に限っては安泰だった。 しかし、時と環境は容赦なく移り変わり、ヘンリエッテは娼館で生まれた女の子の宿命として 10歳にして娼婦たることを強いられ、エルキュールは酷薄きわまりない人間達が闊歩する外界に 放り出された。

----------------------------------------------------------------------------------------------

多くのハンディキャップを抱えたエルキュールは、唯一の希望の光ヘンリエッテを求めつつどの ように無慈悲な外界を生き抜いたか? 彼は高い知性と温かい人間性に加えて、人の心を隈なく 透視できる異能を授かっていました。
ただいま現在、あなたの心にはどんなことが去来していますか? エルキュールは、誰にも知ら れたくない考えや潜在意識まで見透かしてしまうんです。
かなり困りますよね(笑)

先日、図書館で新入荷書棚を眺めていた時にたまたま目にとまったこの著作は、私にとって非常 に新鮮でした。読んでみたいと思った初のスェーデン小説だからです。原題に含まれている Vidundeliga Karlekensの意味は知りませんが、ホラーないしヴァガボンド物であるかのような 邦題は・・・ポワロになってしまう「冒険」なんて付けられなかったのはよいとして、とても読 みやすい流麗な翻訳をなさっている訳者さんの本意ではなかったと思いたいです。 主人公誕生の場面では「エレファントマン」を、異端審問の場面では「薔薇の名前」を、ヘンリ エッテとエルキュルールが引き裂かれる場面では「ポーの一族」を私は連想しましたが、そんな 方は少なくないかも知れません。
大切な2人の命を血も涙もないやり方で奪われたエルキュールは、やむにやまれず復讐を断行しま すが、アメリカのマーサズ・ヴィンヤード島における彼の後半生と最期はいとも平穏でした。 凄絶な前半生にそれくらいの報いがないと救われませんけれども、ちょっと不公平にも感じました。 というのも魂のジュリエッタ、じゃなかった、魂のヘンリエッテがいながら別の女性としっかり 一緒になっちゃったりするからです。でも、この物語は、ヘンリエッテとの間に生まれた子とマー サズ・ヴィンヤードで生まれた子がいないと成り立たない設定になっています。

エルキュールの伝奇的な生涯に添えて、途轍もなく弱者に冷酷だった当時の社会の様相、戦争を めぐる激動、宗教、抗しがたい運命といったものが活写されていますが、底流をなすのは純粋な 愛と見受けられます。さてお立会い、そうした物語は現代にすんなり受け入れられたでしょうか?  受け入れられたようです。日本より大幅に人口が少ないスェーデンで30万部の大ヒットを記録し、 11カ国語に翻訳されているそうです。

byキャットウーマン

 

 

〜私も一言〜

人生真っすぐに生きていける方はそうそういないと思うけれど、エルキュールのように生まれ出た時から数奇な運命を たどらないといけないというのは、どういうこっちゃ!是非、読みます。

by Wakko

Topページへ戻る / 虎犬書棚への投稿 / 感想・ご意見など